ていねいに滑るということ

 

スノーボードの滑走技術に関するコラムで、まず「基本姿勢」の重要性とその「伝え方」の工夫、そして「雪面をつかむ」とはどういった状態かについて、最後に「モチベーション」維持に必要なファクターについて書かせていただきました。その中で“憧れの人物“、つまり“自分がこうなりたいと思う明確なイメージ”を持つことが、目標を持ち続けるためにはとても重要で、モチベーションの維持、「やる気」につながることはお伝えしたとおりですが、同時にDVDや無料動画サイトなどの動画の活用し、お子様の「やる気」を刺激すことをご提案させていただきました。

 

実は私たちも、自分たちが好きなライダーのライディング映像を、それこそVHSの時代からテープが擦り切れるほど観てきました。自分が再現したい箇所は何度も巻き戻し、スロー再生を繰り返す…ビデオのカセットが壊れると、また同じカセットを購入して観る(笑)今は無料動画であっても、いくらでも素晴らしいライディング映像を見つけることができるので、本当に便利になりました。

 

話は少しそれましたが、私たちも自分たちのライディング技術を上げるため、新旧、スロープスタイル、ワンメイク、テクニカル問わずたくさんの映像を観ていますが、このところ、スロープスタイラーの昔の映像と今の映像(日本人ライダーに関してですが)に違いを感じるのです。

 

確かに、トリックの難易度に関していえば、今のほうが複雑な技を多用したライディングであることは間違いないと思います。けれどもある種、穏やかな気持ちで観ることができるのは数年前の映像です。それは、難易度の問題ではありません。決して、できる範囲のトリックのみばかり選択しているわけではなくリスクを背負った滑りで魅せてきていることに間違いはありません。その理由を考えてみると、彼らにはこちらにスラムシーン(失敗シーン)を想像させない、「絶対ここできめる!」という“気迫”そして何より“ていねいさ”があるように思います。

 

今から10年前くらいのスノーボードの練習環境は、今とはまったく違いました。シーズン中のゲレンデ、オフであれば、室内ゲレンデ、海外での練習…そこで、新しい技の習得をするための練習を重ね、怪我のリスクと隣り合わせの緊張感との戦いの中、より難易度の高い技を習得する必要がありました。そこでは、11本に対する「集中力」が必要です。失敗の際のリスク軽減のため、春先の緩んだ状態でのトライ、当然板は走りません。そこで、板を走らすため高いレベルでの基礎滑走技術や状況判断などが必要です。たとえ春先とはいえ、失敗して着地で叩きつけられれば怪我は避けられません。そして、着地に対する強い“執着心”が養われるのです。

 

今はそのころとは練習環境がずいぶん変わっています。室内ゲレンデとは別にブラシとマットを使用したジャンプ施設がたくさん建設されています。そういった施設の素晴らしいところは、環境に優しく、誰もが比較的安全に新しい技に挑戦できるというところです。本当に設計面でもよく考えられていて、レベル問わず安全に飛べるので、恐怖感を最大限軽減し、新しいことにチャレンジしやすいのも、そういった施設が支持される要因だと思います。

 

私たちも、シーズンオフには室内ゲレンデ中心に練習とレッスンイベントなどの活動をさせていただいていますが、こういったブラシのジャンプ練習施設でも時々練習させていただいています。そこで練習されているスキーヤー・スノーボーダーの方をみて感じるのが、皆さん、本当に心からジャンプを楽しんでいらっしゃり、スノースポーツ普及にとってとても素晴らしいことだと思うのです。お子さんたちも、目を輝かせながらどんどんトライし、ものすごいスピードで上達されています。

 

特筆すべきはブラシの特性を生かしながら、回転力を作る独自のメソッドが開発されており、角野ユウキ選手や鬼塚雅選手の活躍からもわかるとおり、日本のフリースタイルジャンプ競技の躍進を支えている日本独自のスノースポーツ文化の一つになっているということです。例えば、スノースポーツを経験したことのないお子さん向けに、ブラシ上で初めてスノースポーツを体験できる教室が開催されたり、みらい市に新たに建設中のブラシのゲレンデ施設では、初心者や小さなお子さんでも手軽にスノースポーツを始められるよう、フリーラン専用のスペースも充実しているようで、また、新たな段階に入ってきているのだと感じています。

 

一方で、今までなら、ある程度の滑走技術の基礎を固めた段階でトライしていたことが、比較的早い段階ではじめることができるというのも事実です。早く始めれば始めるほど習得のチャンスは広がるので良いことであるのですが、勉強でも、基礎学習を十分に習得した上で応用学習に進むピラミッド構造(土台が大きくしっかりした状態で先端に向かって積み上がった状態)であることが“将来の学習の伸び”にとって重要なのは皆さんご周知の通りだと思います。スポーツでも同様に、新たなことに果敢にチャレンジしつつも、土台部分である基礎固めを同時に徹底して行うことがとても重要だと思うのです。

 

ブラシの施設や、室内ゲレンデ、そして冬の雪山のスクール…。それぞれ素晴らしいコーチやインストラクターがいらっしゃり、スノースポーツの普及に尽力していらっしゃいます。それぞれが、それぞれの理想や信念に基づき、技術指導や育成活動をおこなっています。

 

私たちFAMILY SNOW PROJECTは運営方針に基づき、“基礎滑走技術”の習得を目標に、11本に対する“集中力”と“執着心”をもって取り組んでもらえるよう、指導していきたいと考えています。結局は“ていねいに滑る”ことが“将来の滑走技術の伸び”につながり、目標に対して“ていねいに取り組む”ことは“ライフスキルの獲得”にもつながっていくと考えるからです。また“ていねいな滑り”は観る人に安心感を与えます。たとえばゲレンデ、周りを滑る人たちに対するマナーでもあるのです。

 

 

 

失敗のリスクに怯えることなく新たな技にチャレンジできる環境があることはとても恵まれたことだと思う反面、リスクと隣り合わせで、ある意味“一発入魂”のトライで得た技術に対しては圧倒的な凄みを感じずはいられません。安全に練習できる環境に感謝、最大限のトライをしつつも、実践で起こりうる様々なリスクを知ったうえで小さな積み重ねを怠らず、ゆるぎない土台作りをすべきではないかと、昔のDVDを引っ張り出して観返してみた、今も昔も変わらぬ私の思いです。